カウンセリング治療に関して(概要)
当院では、必要な患者さんに対して医師と心理士が連携して治療のあたる診療を提供していきたいと考えています。「カウンセリングってどんな効果があるの?」とカウンセリングの効果を疑問に思う方も多いのではないでしょうか?当院ではカウンセリングルームと連携し、カウンセリングを重視して診療を行なってきた歴史があり、カウンセリングの有用性を確認してきました。医師の診療だけでは決して掘り起こせない心の奥に光を当てていくためには心理士によるカウンセリングが役に立つことがあります。では、この心の奥にあるものってなんでしょうか?
例えば、適応障害という疾患があります。これは狭い意味で言うと、個人の能力や特性が職場などの社会場面でうまく適合せず、その軋轢から心身の不具合が生じる状態です。
一例を挙げてみます。技術者として有能な方が業績を上げていくと、会社の中でも立場が上がり、いづれは管理職に昇進することになります。しかし管理職で求められる能力は、技術者としての能力とは全く異なり、人をまとめ上げ、潤滑に業務が進むように部下や他部署と調整をしていく能力が求められます。部下にとって不本意なこと苦手なこと不慣れなことも指導し業務を軌道の載せていく手腕が問われます。他部署からの圧のある要求にもうまく調整をして落とし所を探っていくという調整能力も必要です。技術者として有能でも、この役割を与えられると他のスタッフや他部署との間での対立面にうまく対応できず、日々疲弊し、やがては抑うつ状態・不安状態に陥る場合があります。対処としては、降格し技術者として職業人生を全うする、自分の対人関係の課題を見つめ直し適応可能な状態に修正を図っていくなどいくつかの方針が思い浮かびます。この対人関係能力は投薬で改善できるものではなく、その個人の中にある心のスタンスにアプローチをしてくことが求められます。生育歴におけるさまざまな体験や重要な他者との出来事が影響していることもあります。このような適応障害に関しては、抑うつ症状や不安症状に対して治療を行うとともに、かねてからある克服すべき課題に向き合うことになります。カウンセリングを行うことで、課題を克服する体験をカウンセリングの中で、そしてカウンセリングに支えられた実生活のなかで実践していくことになります。
カウンセリングには向き不向きもあり、上の例でいうと、降格して技術者として満足するという場合には必要はありません。またカウンセリングの実践はその後の生活や人生に役に立つことをその目的として内包していますが、必ずしも効果が約束されているわけではありません。カウンセリングの必要性・有効性を評価して始めることになります。
当院で行う診療と連携したカウンセリングは、抑うつ症状や不安症状を引き起こしている根本にある課題を解決するには、一般診療だけでは不十分であり、カウンセリングを併用することで、より症状の改善が望める場合に医師の方から提案をさせていただいています。
適応障害でもう少し話を進めてみます。
過重労働、上司による度重なるハラスメント、いじめの構造に置かれ、心身に不調をきたすことがあります。この場合は環境側に問題が大きく環境調整が必要となります。では次のような不適応はどうでしょうか?電話対応が苦手、電話対応すると思うだけで気持ちが重くなる、一度理不尽なクレームを入れられ怒鳴られた後仕事にいけなくなるという方もいます。仕事の適性の問題ですが、電話対応ができない背景には何か生育歴との絡みや重要な他者との間でのトラウマ様の問題が隠れている場合があります。しかも精神的に過重な負荷がかかる出来事や状況は、すぐに引き出せる記憶として残っていないこともあります。それは脳が精神を守るために備わっている機能ですが、こうした場合、通常では覗くことが出来ない心の奥に光を当てていく作業が必要になります。我々の脳は、生物として生き残りかつ次世代に子孫を残すために進化してきました。記憶や意識に上らないことでも脳自身は記録しており、危ないと感じる場面・状況では身体反応を引き起こします。危ないと感じる脳の反応を、薬物投与で減じることができるものもありますが、薬物は適切に使われない場合、脳に負担をかけます。依存や耐性の問題があるベンゾジアゼピン系薬剤が使われることも多く、心の問題をそのままにしていた場合、薬を終了することが難しくなり、依存や耐性の問題が出てくる可能性も高くなります。見立てを誤り薬物でなんとかしようとして薬物投与がどんどん増えるという好ましくない状況にもつながりかねません。
薬だけでは解決困難な状況は、対人関係上の問題に多く現れます。人付き合いがうまくいかず、職場で疎外感を感じたり、集団で浮いてしまう恐怖を感じたりして職場に定着できない人もいます。自分の在り方を知り、問題を明らかにし、対人関係を築く上での課題を浮かび上がらせる作業が必要となります。
また定期的にカウンセラーと会い、自分を見つめる枠組みは、生活の柱となり、カウンセラーの存在は、日々の生活での心を補強してくれる面もあります。そしてカウンセリングを行う心理士と診療を行う医師がリアルタイムで連携できることは、病状を多方面から、違った深さから評価しアプローチできることであり、複雑な問題を取り合うのには有効な治療手段になり得ます。
HSP、解離性障害、発達性トラウマ、母子関係・親子関係、PTSD、対象喪失、発達障害、不登校など、多くの病態・状態にカウンセリングを行うことの意味が見出せます。
こうした病態に関しても、カウンセリングを重視してきた医療機関としてカウンリングの臨床的価値を今後伝えていきたいと思います。
カウンセリングが必要な状態かどうかは、医師の見立てにもよります。生活や仕事場面で何らかの不具合を感じている場合には、カウンセリングが有用なこともありますので、その場合はカウンセリングについて検討されてみてはどうでしょうか?